日本化学療法学会では抗菌薬適正使用生涯教育セミナーを実施しており、夏に開催している1日コースに参加できなかった方を対象に、全国5か所でビデオセミナーを行っており、ご参加頂いております。
平成25年度からビデオセミナー受講者の受講単位を20単位から30単位に変更するにあたり、ビデオセミナー終了後に確認試験を実施することとなりました。つきましては、平成27年度抗菌薬適正使用生涯教育ビデオセミナーにおいて行いました確認試験の内容と回答を下記に掲載致します。
公益社団法人日本化学療法学会
抗菌化学療法認定医制度審議委員会
委員長 青木 洋介
平成27年度 抗菌薬適正使用生涯教育ビデオセミナー確認試験問題
1.Antimicrobial Stewardship Program抗菌薬適正使用プログラムの基本項目
問1.抗菌薬適正使用プログラム(Antimicrobial Stewardship Program)の基本項目に含まれないものは次のどれか。
- 病院としてのプログラム責任者の任命
- 感染症診療コンサルテーションの体制
- 広域抗菌薬の使用状況のモニタリング
- 主要病原細菌の耐性率の報告
- 感染症診療についての教育
2.各科領域
1)血流感染のASP
問2.以下の血流感染症のうち早期の経口抗菌薬へのスイッチが可能なものはどれか。
- 感染性心内膜炎
- 感染源不明の黄色ブドウ球菌血症
- 血行動態の不安定な例
- 急性腎盂腎炎
- 消化管粘膜障害例
2)術後感染のASP
問3.術後感染の予防抗菌薬に関して正しいものを選べ。
- 帝王切開時は胎児への影響を考え、臍帯クランプ後に投与を開始する。
- 予防抗菌薬としてVCMを使用する場合、手術開始の30~60分前に投与する。
- 予防抗菌薬の再投与時間は、投与薬剤の半減期の2倍の時間にするべきである。
- 骨盤内臓全摘など侵襲の大きい手術では、3~5日間の投与が行われる。
- MRSA感染の既往がある患者に対しては、VCMを投与する。
3)尿路感染症のASP
問4.尿路感染症治療におけるantimicrobial stewardshipの達成について誤っているのはどれか。
- 適切な投与期間
- 抗菌薬の限定
- フルオロキノロン系抗菌薬の使用量減少
- 多数の抗菌薬の感受性試験結果
- ガイドラインの遵守率向上
3.一次・二次医療機関におけるASP
問5.細菌培養検査について正しいのを1つ選びなさい。
- 喀出痰の性状分類で、M痰は膿性痰のことである。
- 喀出痰は白血球が少なく扁平上皮が多いものが良質である。
- 咽頭ぬぐい液の採取は食後に行う。
- 血液培養検査は発熱時に2セット行う。
- 血液培養ボトルは常温で放置して良い。
4.ケーススタディ
問6.肝膿瘍の診断治療について正しいのはどれか。
- CTで細菌性肝膿瘍とアメーバ性肝膿瘍の鑑別は容易である。
- アメーバ性肝膿瘍の治療として、ドレナージが必須である。
- 血清アメーバ抗体は、腸管外アメーバ症では感度は低い。
- 初期治療として嫌気性菌をカバーする薬剤が推奨される。
- メトロニダゾールは、腎機能低下症例では減量が必要である。
問7.感染性心内膜炎において、治療方針の決定に有用なのはどれか。2つ選べ。
- 体温
- 白血球数
- CRP
- 血液培養
- 心臓超音波検査
問8.微生物検査の結果は、有効な薬剤の選択やde-escalationを進める際の重要な情報となる。Antimicrobial stewardshipを推進するためにも、微生物検査をうまく活用するうえで配慮すべきこととして誤っているものはどれか。
- 感染症発症に関わるような病歴・背景の有無の確認
- 嫌気性菌を疑う場合の専用検体輸送容器の使用
- 特殊な微生物の検出が必要な場合の検査室との情報共有
- 検体採取前の抗菌薬投与
- 敗血症を疑う場合の積極的な血液培養検査
解答および解説
1.Antimicrobial Stewardship Program抗菌薬適正使用プログラムの基本項目
問1正答:2
解説:
抗菌薬適正使用プログラムでは、リーダーシップや責任分担の明確化などを含む院内体制の整備と(選択肢1)、プロセス・アウトカムの監視(選択肢3、4)を伴う行動・介入、そして感染症診療や抗菌薬に関する教育(選択肢5)、が基本項目です。感染症診療コンサルテーションの体制(選択肢2)はプログラム遂行が有利になる手段ではありますが、必ずしも基本項目として必要なものではありません。
参考:CDCの提唱するASPの基本項目
- リーダーシップ
- プログラム責任者
- 専任薬剤師
- 行動・介入
- 追跡(抗菌薬使用状況・薬剤耐性)
- 報告(プロセス、アウトカム)
- 教育
2.各科領域
1)血流感染のASP
問2正答:4
解説:
- 感染性心内膜炎では血流が乏しい疣贅中の細菌を死滅させるために高用量の静注抗菌薬を長期間(2~6週間)投与する。
- 感染源が不明の黄色ブドウ球菌血症は感染性心内膜炎に準じて4~6週間の静注による抗菌薬治療を行う。
- 敗血症性ショックなど血行動態が不安定な例では静注抗菌薬治療を行う。
- 急性腎盂腎炎では48時間以上の解熱の持続などを指標として感受性を有する経口抗菌薬へのスイッチ治療がしばしば行われる。
- 粘膜障害例や下痢を伴う例では消化管からの吸収障害のリスクがあるため静注抗菌薬治療を行う。
2)術後感染のASP
問3正答:3
解説:
- 帝王切開では、新生児の細菌叢の抑制と耐性菌の選択、新生児のsepsisをマスクしてしまうという観点から臍帯クランプ後に投与するのが一般的であったが、近年、他の手術同様、手術前からの投与したほうが分娩後子宮内膜炎や創感染が減少することがメタ解析で証明され、現在では他の手術同様、術前からの投与が推奨されている。
- 予防抗菌薬としてVCMやフルオロキノロン系薬を使用する際は、投与速度や副作用の観点から120分前に投与される。
- 術中は抗菌薬の組織内濃度を維持する必要があるため、長時間手術では術中再投与が必要で、再投与のタイミングは、投与薬剤の半減期の倍の時間が目安とされている。
- 予防抗菌薬の投与期間は、手術侵襲等に関わらず基本的には24時間以内とする。
- MRSA感染の既往がある症例はMRSA保菌の高リスクのため、術前にMRSAの保菌チェックを考慮する。
3)尿路感染症のASP
問4正答:4
解説:
尿路感染症治療のASPにおいて、多数の抗菌薬感受性試験結果を網羅的に報告することは、臨床医にとって、選択の幅が広がります。しかし、結果として、ガイドラインで推奨されているような抗菌薬の処方頻度が低下するという研究結果が報告されていることから、ある程度選択肢を絞った体裁での抗菌薬感受性試験結果報告が望ましいと考えられます。他の選択肢は、いずれも、ASPの達成に必要と考えられます。
3.一次・二次医療機関におけるASP
問5正答:4
解説:
- M痰は粘性痰、P痰は膿性痰である。
- 白血球が多く扁平上皮が少ないものが良質である。
- 食後では嘔気を惹き起すので、食前が望ましい。
- 正解
- 検出感度を高めるためには、直ちに培養機器に入れる必要がある。
4.ケーススタディ
問6正答:4
解説:
- CT所見で細菌性肝膿瘍と鑑別は難しい。
- アメーバ性肝膿瘍ではドレナージは必ずしも必要ではない。
- 血清アメーバ抗体検査は、腸管外アメーバ症では感度が95%以上と高く診断に有用である。
- 細菌性肝膿瘍の原因菌として、腸内細菌科(特にKlebsiella属)、Bacteroides属、腸球菌の混合感染が多い。初期治療として、抗嫌気性菌活性を有する薬剤の投与が望ましい。
- メトロニダゾールは肝代謝薬剤であり、腎機能低下例でも減量は不要である。
問7正答:4、5
解説:
感染性心内膜炎の治療方針を決定するためには、(1)感染性心内膜炎の診断を確実に行うこと、および(2)原因菌を同定するよう努めること、の二つが必須である。診断のためには、Dukes分類にあるように、血液培養により菌血症の存在を証明すること、および心臓超音波検査により心内膜の構造異常を証明すること、の二つが重要である。原因菌の同定は血液培養、および/または手術で摘出した疣贅の微生物学検査によって行うことが通常である。体温、白血球数、CRPは炎症の存在を反映し、治療経過の判定に用いることは可能であるが、治療方針の決定には有用ではない。
問8正答:4
解説:
- 病歴聴取は、微生物検査の結果が出るまでの間の抗菌薬選択への影響に加えて、疑わしい微生物に適した特殊検査依頼(抗酸菌、嫌気培養、レジオネラ、カンピロバクター、各種抗原検査など)を初期の段階から行うことを可能とする。
- 嫌気性菌の関与を知るために行う嫌気培養は、検体採取と輸送という「検査前段階」のプロセスが極めて重要である。検体採取後ただちに専用輸送容器(嫌気ポータ―など)に入れて、検査室へ提出する。
- 臨床から寄せられるニーズをもとに、検査室スタッフがより適切な培地の選択や培養条件などを工夫することで、原因微生物の検出につながることがある。
- 抗菌薬投与後の微生物検査の検出率は著しく低下する。治療開始前の検体を利用した微生物結果は、数日後の治療方針に大きな影響を及ぼす。特に、微生物検査の陰性所見は、その検体採取が抗菌薬投与の前なのか後なのかで、その解釈が全く異なる。
- 発熱前の悪寒が強い時期に、血流内菌量は比較的多い。敗血症を起こす背景がある場合には、速やかに検体採取をすることで検出率が向上する。