日本化学療法学会

委員会報告・ガイドライン

チゲサイクリン適正使用のための手引き2014

論文名

チゲサイクリン適正使用のための手引き2014

委員会

チゲサイクリン適正使用のための手引き作成委員会

  • 委員長
    三鴨 廣繁(愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学)
  • 委員
    藤村  茂(東北薬科大学臨床感染症学)
    渡辺 晋一(帝京大学医学部皮膚科学)

はじめに

 チゲサイクリン(TGC)は、グリシルサイクリン系抗菌薬と命名された新たなカテゴリーに属する抗菌薬であり、グラム陽性菌、グラム陰性菌(緑膿菌を除く)、非定型菌、嫌気性菌に抗菌活性を示す広域な抗菌スペクトルを有する。TGCは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの多剤耐性グラム陽性菌のほか、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生のグラム陰性菌にも抗菌活性を示すように、広域な抗菌スペクトルを示すが、その抗菌活性は薬剤不活化、リボソームの保護、能動排出ポンプなどの発現による耐性化の影響を受けない。
 一方、世界的な抗菌薬の頻用・乱用は薬剤耐性菌の蔓延を招き、薬剤耐性菌の発現頻度は増加していることから、早急に医療対策を講じる必要がある。薬剤耐性菌の種類として、強毒・侵襲型を含むMRSA、VRE、ESBL産生グラム陰性菌、多剤耐性Acinetobacter属などがあり、その種類も増加している。しかし、これらの耐性菌に対して良好な治療効果をもたらす抗菌薬の選択肢は耐性化の進展とともに減少傾向にある。また、耐性菌に有効な抗菌薬であっても、抗菌スペクトルが狭いことや安全性上の懸念から使用を制限されることが多い。
 一般に多剤耐性は、複数の耐性機序が同時に発現して生じることが多い。その耐性機序の一つであるβ-ラクタマーゼ産生は、グラム陰性菌のβ-ラクタム系耐性獲得の主な原因である。Escherichia coliKlebsiella pneumoniaeで多く認められるESBLは、新世代セファロスポリン系抗菌薬やアズトレオナム(AZT)の抗菌活性を消失させる。ESBL以外にも、腸内細菌の一部がフルオロキノロン系抗菌薬に対して耐性を示し、その割合も増している。2010年8月に報告されたNDM-1(New Delhi metallo-β-lactamase-1)多剤耐性菌の感染事例では、TGCおよびコリスチン(CL)を除く抗菌薬に耐性を示していた。
 TGCは、現在、欧米のガイドラインでcSSSIおよびcIAIに対する治療薬の選択肢の一つとして推奨されており、2011年に欧州で公表されたcIAIに対するガイドラインでは、MRSA、VRE、ESBL産生腸内細菌科菌群、特に大腸菌およびKlebsiella属、Acinetobacter属、およびCarbapenemase産生肺炎桿菌などに対して推奨されている抗菌薬の一つである。わが国では、第一選択薬が無効あるいは不忍容で既存薬が使用できない皮膚科領域感染症患者および腹腔内感染症患者における治療薬は限られていることから、感染症関連の四学会(日本感染症学会、日本化学療法学会、日本環境感染学会、日本臨床微生物学会)が、欧米では第一選択薬となっているような薬剤(CL、TGC)をわが国でも早期に使用できるよう、2010年に「多剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症に関する四学会からの提言」を公表したことをうけ、ファイザー株式会社がわが国での開発を再開し、2012年9月承認を取得した。
 ただし、わが国での開発に際しては、第1相臨床試験は日本人ボランティアで実施されたが、日本人の感染症患者を対象とした臨床評価は行われておらず、外国で実施された試験成績に基づいてまとめられている。また、多剤耐性菌に関する臨床経験は外国試験においても限られており、海外文献や少数の臨床使用経験などから得られた情報も参考にしている。
  したがって、今後は本手引きに準じて慎重な使用を心がけながら、わが国の感染症患者における臨床成績を集積していくことが大切である。

チゲサイクリン適正使用のための手引き2014(PDF 5.24MB)

日本化学療法学会雑誌 Vol. 62, 2014年3号(5月) p.311~366

最終更新日:2014年5月27日
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