日本化学療法学会

委員会報告・ガイドライン

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017―敗血症およびカテーテル関連血流感染症―

(2018年1月24日 掲載)

論文名

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017―敗血症およびカテーテル関連血流感染症―

委員会

一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本化学療法学会
JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会
敗血症ワーキンググループ

  • 委員長
    荒川創一
  • 委員
    笠井正志、河合 伸、坂田 宏、真弓俊彦

緒言

 敗血症は、あらゆる感染症の中でも最も重篤な病態に属するもののひとつである。細菌感染症治療の原点ともいうべきその治療体系構築には、感染症学・化学療法学の叡智を集学しなければならない。近年さまざまな抗菌薬耐性菌の出現により細菌感染症はその治療方針を柔軟に転換していくことが求められているが、敗血症領域においても例外ではない。MRSAやESBL産生菌などを含め、耐性菌の関与を念頭において対処する必要もある。耐性菌は院内感染にとどまらず市中感染において日常的に認められるようになってきている。
 敗血症は、一般に原発の感染部位があり、その重症化した病態を指す場合がその定義でもある。一方で血管内留置カテーテルが要因となって起こる狭義の血流感染症は臨床的によく遭遇するところで、敗血症の項で取り上げるには病態に乖離があるが、便宜上本項に包含させる。前者では原発感染巣を検索し、その感染部位や病態に応じた治療を施すのが原則であるが、本ガイドラインでは原発巣が不明あるいは不明確な時点での敗血症に対する初期抗菌薬治療に特化して、empiric therapyとしての抗菌化学療法を記述する。カテーテル関連血流感染症においては、原因菌が同定された際のdefinitive therapyについても具体的に解説する。
 2012年発刊のJAID/JSC感染症治療ガイド2011、さらに2014年に刊行された改訂版JAID/JSC感染症治療ガイド2014では、それらの第1章に敗血症が位置付けられている。2017年度中には再改訂版JAID/JSC感染症治療ガイドの編集が予定されている。ここではそのガイドの行間を補充し解説するために、ガイドラインとして構成することとした。ポケット版としての上記ガイドの記述背景とエビデンスとが十分に理解されることによって、実地医療者にとってこのガイドラインが実際的な抗菌薬適正使用のさらなる一助となれば幸いである。昨今のガイドラインはMindsの規定に則った手法による記載が一般化されつつあり、本ガイドラインも本来であればそれに従うのが理想である。しかし、時間的制約等がある中でその方式にこだわることにより、成書としての発刊が遅れ実地臨床に資するタイミングが徒に遅れることを避けるために、今回は必ずしもそれには従い得ていない。このガイドラインは、日本感染症学会・日本化学療法学会ホームページにてドラフトを公表しパブリックコメントを広く聴取し、妥当な指摘には可及的に対応し書き改めて、本稿に至ったものである。委員が立脚した最大のポイントは、敗血症治療に直面した医師・薬剤師等が、具体的にどの抗菌薬を選択するべきかを明確に示し、臨床現場での治療学に直結させるという点である。Clinical Question等が併記されていない不完全な側面は、次の委員会での改訂作業に委ねることを前提として、このガイドラインを実地に役立てていただきたい。
 本ガイドラインは、上述の観点および今後新しい耐性菌の出現や蔓延が考えられること、新規抗菌薬開発の情報を盛り込む必要性などから、数年ごとに逐次改訂をしていく予定である。
 なお、本邦における敗血症診療ガイドラインは直近で、日本集中治療医学会・日本救急医学会による「日本版敗血症診療ガイドライン2016」1)、国際的なガイドラインとしては、Surviving Sepsis Campaign:International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock:20162)が公表されているが、これらのガイドラインは、幅広く敗血症診療全体について記述されており、綿密なガイドライン作成手法に則ったゴールデンスタンダードとしての極めて豊富な内容からなる。ただ、抗菌薬治療に特化されたものではなく、具体的な抗菌薬名への言及は割愛されている。それに対して、ここにまとめたガイドラインは、抗菌化学療法のしかもempiric therapy選択薬を主体とした内容であり(カテーテル関連血流感染に関してはdefinitive therapyに言及)、上記の両ガイドライン1)2)を十分に理解されていることを前提としている。すなわち、ショックや多臓器不全といった救命的対応を要する敗血症病態において、治療の一端を担う抗菌薬選択がより的確に行われることをサポートするのがこのJAID/JSC敗血症ガイドラインの位置づけである。
 もっとも重要な点は、敗血症という致死的臓器不全に対しては、抗菌化学療法を可及的早期(具体的には1時間以内)から開始することは単なる必要条件の一つであり、敗血症診療においては感染源コントロールおよび気道/呼吸/循環に始まる集中治療管理が、救命の観点から必須ということで、それを前提に治療に当たることを忘れてはならない。

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2017―敗血症およびカテーテル関連血流感染症―(PDF 867KB)

日本化学療法学会雑誌 Vol. 66, 2018年1号(1月) p.82~117

最終更新日:2018年1月24日
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