日本化学療法学会

委員会報告・ガイドライン

抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドライン

(2018年1月24日 掲載)

抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドライン作成の経緯

長崎大学 河野 茂

 抗菌薬は感染症の治療として人体に投与される薬剤であるが、作用は主として病原微生物に対する抗菌効果という特殊な薬物である。このため、患者に対する効果や副作用といった臨床的な評価と、病原菌を対象とした細菌学的な評価の両方を行う必要がある。つまり感染症治療の評価には、他にはない軸が必要であり、1998年に作成された『「抗菌薬臨床評価のガイドライン」について』(平成10年8月25日付け医薬審第743号)に準じて抗菌薬の臨床開発が進められてきた。しかし感染症や抗菌化学療法を取り巻く環境は大きく変遷しており、主なものだけでも、世界的な新興・再興感染症の出現、薬剤耐性菌の蔓延、抗菌薬におけるPK/PD(Pharmacokinetics、PK/Pharmacodynamics、PD)理論の構築と応用などが挙げられ、19年前の指針の見直しが必要と考えられた。
 一方で、抗菌薬開発の流れも変化し、例えば広域抗菌薬から特定の菌種や薬剤耐性菌を対象とした薬剤への移行、症例数の確保や開発の迅速化を目的とした国際共同治験の推進、および抗菌薬の承認に必要とされるデータを日米欧の規制当局間で共通化など、開発の偏りと審査の進歩などが見て取れる。しかし新規抗菌薬開発は、臨床評価法なしには成り立たないことが明らかであり、新しいエビデンスのもとに現状に即した改訂の必要性が議論されるようになった。
 本学会としては、2005年に抗菌薬臨床評価のガイドライン改定委員会を組織し、作業を開始した。本委員会では、産学官の委員が協力して、さまざまな視点から詳細を検討し、関係各方面の意見を調整して、抗菌薬臨床評価方法に関するガイドラインの原案を2009年に厚生労働省に提出した。厚生労働省および独立行政法人医薬品医療機器総合機構の助言を受け、2012年6月に修正案を厚生労働省に再提出した。その後、厚生労働省および医薬品医療機器総合機構内でのさまざまな検討を経て、2017年8月にパブリックコメントの募集、その対応を協議し、このたびの公表にいたった。
 改訂された本ガイドラインが、グローバルに展開される新興・再興感染症に対する新薬やAMRアクションプランで示されている薬剤耐性菌への新規抗菌薬開発の推進に寄与できることを期待している。
 このガイドラインの公表にいたるまでに、多大なるご支援・ご助言いただいた公益社団法人日本化学療法学会、厚生労働省、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、各製薬関連企業の方々に深謝申し上げたい。

【抗菌薬臨床評価ガイドライン改定委員会】

委員長
河野 茂

総論委員
砂川慶介、二木芳人、東山康仁、堀 誠治、荒川創一、八木澤守正、栁原克紀、小笠原和彦、小田島正明、小野 真、加藤研一、高橋 誠、津下宏之、長島正人、丸尾彰範

アドバイザー
佐藤淳子

各論委員
敗血症・感染性心内膜炎
 三鴨廣繁
皮膚軟部組織感染症
 赤松浩彦、大西誉光、山崎 修、渡辺晋一、草地信也、竹末芳生、三鴨廣繁
整形外科領域感染症
 小谷明弘、弦本敏行、松下和彦
呼吸器感染症
 門田淳一、綿貫祐司
尿路性器領域感染症
 石川清仁、清田 浩、重村克巳、高橋 聡、濱砂良一、速見浩士、村谷哲郎、安田 満、山本新吾、渡邉豊彦
性感染症
 三鴨廣繁
腹腔内感染症
 草地信也、竹末芳生
産婦人科領域感染症
 野口靖之、三鴨廣繁、吉村和晃
感染性腸炎
 相楽裕子
眼科領域感染症
 外園千恵、中川 尚、秦野 寛
耳鼻咽喉科領域感染症
 黒野祐一、鈴木賢二、山中 昇
歯科・口腔外科領域感染症
 金子明寛、山根伸夫
クロストリジウム・ディフィシル関連腸炎
 三鴨廣繁
小児感染症
 岩田 敏、尾内一信、坂田 宏
微生物学的評価法
 舘田一博

抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドライン(PDF 837KB)

日本化学療法学会雑誌 Vol. 66, 2018年1号(1月) p.3~81

最終更新日:2018年1月26日
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