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委員会報告・ガイドライン

委員会報告集

日本化学療法学会 公益目的事業プロジェクト
「侵襲性肺炎球菌感染症由来のムコイド型ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)に関する研究」

(2018年11月14日 掲載)

研究代表者:岩田 敏
解析者:生方公子、高田美佐子、諸角美由紀
分担研究者:迎  寛、石田 直、宮入 烈
公益社団法人日本化学療法学会理事長:清田 浩

はじめに

 急速な少子高齢化社会を迎えたわが国では、肺炎が死亡原因の第3位に浮上している。肺炎球菌は市中型肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)の原因として最も重要な菌であり、高い致命率で知られる。ヒトに対する本菌の高い病原性の一つは多糖体でできた菌体表面に存在する莢膜構造にあるが、現在97種の抗原性の異なる莢膜型が存在する。この莢膜を抗原として小児用には無毒化されたジフテリアトキソイドタンパクを結合させた7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)が開発され、次いで13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)へと発展してきた。わが国では2010年末にワクチン接種緊急促進事業による公費助成がスタートしたが、導入2年目にはPCV7の接種率は全国平均95%前後ときわめて高い接種率となった。その後PCV13に切り替えられた後も高い接種率が維持されている。
 他方、23種の精製した多糖体のみを含む肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)はわが国においては1988年に薬事承認されたが、広く認知され普及するにはいたらなかった。しかし、わが国の急速な人口動態の変化は基礎疾患保持者の相対的な増加を伴い、予防にもようやく目が向けられはじめ、その結果65歳以上の成人に対しPPSV23の変則的接種の公費助成が2014年に導入されている。
 小児の侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal diseases:IPD)に対するPCV7、およびPCV13ワクチン効果は明白で、加えて成人のIPDにも明らかな間接効果をもたらしている1)。また、これらの結合型ワクチンの普及に伴い、ヒトの鼻腔に保菌される肺炎球菌も大きく変化し、その結果IPDの起炎菌もワクチンに含まれる莢膜型株は激減、ワクチンに含まれない莢膜型株へとシフトしてきている1、2)
 一方、厚い莢膜をもつためムコイド型を呈する莢膜3型株の抗原はPCV13とPPSV23の両方に含まれるが、その予防効果には違いがみられる。すなわち小児に対するPCV13接種以降、急性中耳炎(AOM)のサーベイランスによると莢膜3型によるAOMは減少し明らかな予防効果がみられている3)。しかし、65歳以上ではPPSV23の接種率は50%前後となっているとされるが、莢膜3型の予防効果は乏しいと推定される1)。成人IPD感染症の15~20%は莢膜3型菌に起因し、その死亡率は25%に達する4)
 菌の薬剤耐性化からみると、3型菌はその特徴的な細胞壁構造から菌体内に他のレンサ球菌あるいは肺炎球菌のDNAを取り込みがたく、遺伝子組み換えを生じがたいため薬剤耐性化しにくいことが知られていた。しかし近年、このタイプにペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)が出現し、注目されている5)。ムコイド型を呈するPRSPの出現は、わが国においてもまた世界的にも将来きわめて憂慮すべき問題を含んでいる。
 このような現状をふまえ、本研究ではIPD由来のムコイド型肺炎球菌を全国規模で収集し、薬剤耐性を含めて分子疫学的に詳細に解析することを第一の目的とした。また、PRSPがみいだされた際には、その出現のメカニズムを明らかにすることを第二の目的とした。これらの解析を通じて今後の肺炎球菌感染症の変化を予測し、臨床へ役立てたいと考えた。